中国は2021年2月1日からCO₂排出量取引を全国で始めた。
まず発電業者から始め、今後5年間で鉄鋼や建材も加える。
温暖化ガスの排出量に金銭的価値を付けて
抑制効果を高める。
当初は排出枠を割り当てられる事業者の負担が
経済成長への影響を考慮して取引価格を低めに抑え、
時間をかけて市場を整える。
習近平国家主席は2030年までに
二酸化炭素(CO₂)の排出量をピークアウトさせ、
2060年までに実質ゼロにするとの目標を掲げている。
排出量取引の全国への拡大は目標の実現に向けた
具体策の一つとして位置づける。
政府がCO₂などの温暖化ガスの
「排出枠」の総量を決め、対象企業に割り振る。
実際の排出量が枠を超える企業は、
余裕がある別の企業から排出枠を買わなければならない。
この売買が「排出量取引」だ。
企業はコスト削減へ排出を減らそうとするため、
社会全体でも、温暖化ガスの抑制を期待できる。
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中国の排出量取引額は2019年、
21憶9千万元(約350億円)で2018年より5割超増えた。
全国市場では、まず発電業者に排出枠を設ける。
温暖化ガスの年間排出量がCO₂換算で
26,000トン以上の2,225社が対象だ。
政府は電力に次いで、鉄鋼や建材、石油化学、
化学、非鉄金属、製紙、航空も
2025年までに対象に加える方針だ。
当初の取引価格は低めで推移するとの見方が多い。
価格は市場取引で最終的に決まるが
政府が排出枠の総量を調整して1トン当たりの
平均価格は約50元(約800円)で
欧州市場の約33ユーロ(約4,200円)と比べて割安だ。
その後、25年に71元、30年に93元と
緩やかに上昇していくとみる。
価格が低いと排出量が多い企業は
市場から比較的安く排出枠を買えるため、
抑制効果は高まりにくい。
政府が割り当てた枠の範囲内に
排出量を抑えられない企業には
罰金などを科すが2万~3万元にとどまる。
「罰金を負担しても大した苦にならない」
(鉄鋼関係者)と懲罰的な抑止効果も限定的だ。
政府が業種や価格の面で市場の拡大を
段階的に進めるのは経済成長や
石炭依存型のエネルギー構造も考慮するためだ。
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多くの業種で一気に厳格な抑制を求めると
コスト転嫁で電気料金などの引上げが広がり
企業や個人の経済活動に影響しかねない。
法的根拠となる弁法も全国市場での取引は
順を追って進めると明記した。
電力業界の年間排出量は約40憶トンで
鉄鋼など他の⑺業種も含めると50憶トンを超えるという。
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世界最大の取引市場である欧州連合(EU)の
取引対象は年間20憶トンとされる。
将来的には中国が最大市場になる
可能性があるが市場取引のメカニズムを生かして
排出を効果的に削減するには市場の他、
周辺環境の整備も欠かせない。
例えば、排出量取引に関連した
金融商品の開発だ。
北京などで試験的な取引を通じて
排出枠を担保に融資する銀行も出てきた。
中国人民銀行(中央銀行)は1月、
「民法で排出枠など環境権益を
さらに明確にすべきだ」と提言。
より多くの投資マネーが気候変動対応の分野に流れ込み、
温暖化ガスの排出抑制を促すようにするには、
法的な整備も欠かせないと訴えた。
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【2021年 Vol.037】担当:荒川正歩